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東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)4005号 決定

申請人 杉山重男

右代理人弁護士 松本善明

高島謙一

安田郁子

被申請人 メトロ交通株式会社

右代表者 川崎一雄

右代理人弁護士 松崎正躬

和田良一

主文

被申請人が申請人に対し昭和三一年一〇月二九日なした解雇の意思表示の効力を停止する。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一申請の趣旨

申請人は、主文同旨の仮処分命令を求めた。

第二当事者間争ない事実

申請人は、昭和二八年六月タクシー営業を目的とする被申請会社(以下、会社という。)にタクシー運転手として雇われたが会社は昭和三一年一〇月二九日申請人に就業規則第七八条第三号にいう「職務上々長の指示に従わず、越権専断の行為をなし職場の秩序を乱したとき」に該当する事実があるとして解雇の意思表示をしたことは当事者間争ない。

第三本件解雇と不当労働行為

当裁判所は疏明によつて認められる次の諸事情から見て、本件解雇は申請人がメトロ交通労働組合(以下組合という。)の組合員であるがためになされた不利益な差別待遇であつて、不当労働行為を構成するものと考える。

すなわち

一  申請人は昭和二八年一〇月組合神奈川支部(会社神奈川営業所々属の従業員で組織する。)結成と共に同支部に加入し、爾来同組合員であること

右組合は昭和二九年一月二六日以降八日間、同年一二月二一日以降四四日間、昭和三一年六月二七日以降同年一一月下旬まで争議を行つたこと

二  申請人は、右第三回目の争議においては、組合の方針であるいわゆる遵法斗争(交通法規等を完全に守るということで、稼動の能率をおとす争議行為)を実施した外、数回会社神奈川営業所前の二四時間のハンストに参加したこと

三  右争議中である同年七月二〇日会社神奈川営業所(横浜、横須賀両地区を含む。)所属従業員の一部が横浜メトロ労働組合(以下第二組合という。)を結成したが、この結成に際して会社係長が組合員に対し組合を脱退するよう勧告したこと

そのため、申請人の所属する横須賀営業所所属の運転手一一名中申請人外二名を除くその余の八名は組合を脱退し第二組合へ加入したり或いは中立となつたが、申請人は脱退しようとした者に脱退を思いとどまるよう勧告したこと

四  昭和三一年一〇月頃会社神奈川営業所長本田政次より申請人外一、二名の者がよく働くようにといわれた際、申請人等が「遵法斗争中だから」と答えたところ、本田所長から「お前達の退職金はもう用意してある。ストが終つたら覚悟しておけ。」といわれたこと

五  申請人に対する懲戒解雇の理由となつた事実は、

「申請人が昭和三一年一〇月二六日午前二時頃国際シツプサービス株式会社(同会社は、かねてから被申請会社が乗車賃の月払契約を締結している船会社の乗客で被申請会社のタクシーを利用するものがある場合には、被申請会社にその旨電話連絡をしている。)のタクシー乗車地で客待中右国際シツプサービス株式会社の事務員中川貞がその日につく船もなくなつたので食事に行くというので、申請人も同所では最早仕事がないことが判り、空腹でもあつたので自分も食事に行くことにしたが、中川から、かねて国際シツプサービス株式会社の用務としてばかりでなく個人的にも申請人等の会社運転手に乗客を世話して貰つているので、中川を自己の車に同乗させ、メーターを倒さないまま約一粁余離れた横須賀中央駅附近の食堂まで来たが、同所が満員のため、同所から中川の知合の婦人をも乗せ、更に同市本町附近の食堂に赴いたこと」であつて、申請人のかかる行為は、会社が予じめ禁止している点に反している点はあるが、その目的が私利を得る目的でもなく、会社や申請人に対し客のあることを電話連絡してくれたり、客を世話してくれる前記中川をサービスのつもりで同乗させたにすぎないから、かかる事実だけで申請人を前記就業規則の条項に該当するとして懲戒解雇することはやや苛酷な措置と認められ、この点に関する会社の就業規則の適用について合理的理由に乏しいこと

六  会社は当時争議に入つていなかつた第二組合の組合員の規則違反に対し必しも厳格な態度をとつていなかつたこと

例えば、昭和三一年一〇月下旬組合員の清水昭雄が第二組合員の宇和島運転手のメーター不倒行為を現認したので、その旨を会社に組合の神奈川支部書記長を通じて申告したのに対し、会社は清水昭雄について調査することなく、宇和島運転手にメーター不倒行為なしと断定していること

以上の諸事情を綜合して見れば、本件解雇は申請人がメトロ交通労働組合の組合員として争議に参加していたために争議不参加の第二組合員とは不公正に差別されて受けた不利益待遇であると認めるのが相当である。

従つて、申請人に対する本件解雇は不当労働行為として無効であるというべきである。

第四仮処分の必要性

申請人に対する解雇が無効であるのにかかわらず、被申請人から従業員として取扱れないことは申請人のような賃金のみによつて生活している労働者にとつて重大な損害であるから、申請とおりの仮処分をする必要があるものと認められる。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西川美数 裁判官 大塚正夫 花田政道)

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